アドラーと内田樹さんから思うプロジェクトマネジメント

初めて『嫌われる勇気』を読んだ2013年はITベンチャー会社で新規開拓の営業をしていました。先輩や取引との関係を当てはめながら読みましたが、今回は大規模企業のプロジェクトマネージャーとして読み新しい学びがあった為、共有したいと思います。

同じく大きな会社でプロジェクトマネージャーをしている方々の参考になると嬉しいです。

結論

  • アドラーが自分の人生を生き抜く為に作った心理学?
  • 短期利益と長期利益のバランスを目指す

 

アドラーが自分の人生を生き抜く為に作った心理学?

 

まず読む始めるにあたってアドラーという人物と彼がいた時代を簡単に調べました。歴史的な背景と周囲の環境がその人に及ぼす影響は大きいはずです。

  • アドラーは1870年にウィーン近くで誕生
  • 両親はハンガリー系ユダヤ人の父とチェコスロバキア系ユダヤ人の母
  • 6人兄弟の次男

ユダヤ人はコミュニティの集まりを大切にする文化と聞いています。かつハンガリー系とチェコスロバキア系の両親でしたので、それぞれのコミュニティがあったかもしれません。更に6人という沢山の兄弟に囲まれたアドラーは、おそらく常に人の輪にいたと考えられます。

アドラーは1902年にフロイトの研究グループに参加しましたが、徐々にフロイトと意見が異なることが多くなり1911年にはフロイトのグループとは完全に決別しました。

ちなみに、1870年はフランス帝国とプロイセン王国の間で戦争が行われた年です。1915年には第一世界対戦が勃発し、アドラーは軍医として従軍しました。後に、彼の長女ヴァレンタインはハンガリー人ジャーナリストと結婚した後モスクワに移住し、そこで政治的な嫌疑をかけられて逮捕、拘留先で亡くなりました。

フロイト達との決別、ヨーロッパでの戦争、家族の死。このような状況はアドラーの思想に影響を、不安定な世界において揺るがない個人の姿を考えたのかもしれません。

ちなみに父親が穀物商を営んでいた為、アドラーの家庭は中流階級で比較的余裕があったそうです。おそらく、アドラー心理学は経済的な困窮から少し距離のある人物が、不安定な世界における確固たる理想の個人を求めたものかもしれません。

今の私たちにも繋がる部分があるとおもいませんか?

 

短期利益と長期利益のバランスを目指す

 

全ての悩みは対人関係である

『嫌われる勇気』の中でも特にインパクトのある文章です。アドラー自身の背景もふまえると、よりメッセージの重たさを感じます。

嫌われたくないとの一心から、10人全員に忠誠を誓う。これはちょうどポピュリズムに陥った政治家のようなもので、できないことまで「できる」と約束したり、取れない責任まで引き受けたりしてしまうことになります。無論、その噓はほどなく発覚してしまうでしょう。そして信用を失い、自らの人生をより苦しいものとしてしまう。

ポピュリズムとは「大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢」(Oxford Language)で、誰からも受け入れられることを望む姿勢です。『嫌われる勇気』では、ポピュリズムにならないことを自由と呼び、「自由とは、他者から嫌われることである」と書いています。

私はこの考えを仕事に、プロジェクトマネジメントにどう活かせるかを考えました。仕事をすれば様々な人間関係に直面させられます。特に、私の経験上、企業規模が大きい程により多くの部署と人が関わってきます。一人ひとりの意見を採用することはできません。

しかし、その対策が「他人から嫌われること」では何を実践するのは少し難しく感じます。他人から嫌われるか否かは結果であって、その前にどのような考えに従って選択するかがあります。そしてプロジェクトマネジメントにとって、正しい考えに基づいた正しい選択はスケジュール通り進める為にもコストを抑える為にも重要です。

そこでポピュリズムと相対する考え方を検索してみました。例えば対義語の候補としてエリート主義が挙げられています。エリート主義は「社会の中で優秀とされる人物や集団(エリート)を重視する思想」(Wikipedia)とのことで、明らかに目指したい姿ではありません。他に「王政(monarchy)」「貴族政(aristocracy)」「寡頭政(oligarchy)」などがあるようですが、明らかに正しい考えではありません。

更に深めていくと、内田樹さんが以下を言っていました。

ポピュリズムについては、その対義語が何であるかについての合意がまだ存在しないからである。

『サル化する世界』http://blog.tatsuru.com/2019/05/27_1639.html

 

どうやら明確な対義語がないようです。しかし、それでは私たちは何に準拠して選択すればよいのか分かりません。しかし、内田樹さんが解釈するポピュリズムにヒントがありました。

ポピュリズムとは「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」という考え方をする人たちが主人公になった歴史的過程

内田樹さんは未来の自分が抱え込むことになる損失やリスクを軽視する「当期利益至上主義」をポピュリズムと捉えているそうです。だとすると対義語は長期的な利益を目指すことです。これはスッキリと納得できます。しかし果たして、長期的な利益を追求する事がプロジェクトにとって常に正しいのでしょうか?

時に長期的な利益を重視しすぎるとプロジェクトの成果が後回しになります。成果が生まれないとプロジェクト自体が無くなったり、担当から外されたりする危険があります。そうなっては元も子もありません。

そこで私が行き着いた結論は、短期的な利益という外圧を受けながら、長期的な利益を追求し、その間のどこかで着地することです。そして中間で着地しようとする時、短期的な利益を重視の人から、もしくは長期的な利益を重視する人から批判されるかもしれません。その批判こそがプロジェクトマネジメントにおける「他者から嫌われる」ことかもしれません。

まとめ

『嫌われて勇気』の一部分、ポピュリズムと「他人から嫌われること」について、アドラーの時代背景をふまえながら、自身のプロジェクトマネジメントにどのように活かせるか考えました。短期的利益だけにならず、長期的利益だけにもならず、その中間にある着地点をさぐること、その結果として他者に嫌われたならば甘んじて受け入れること、プロジェクトを進める上で役に立つ考え方かもしれません。

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